すでに始まっている「スポーツDX」 テクノロジーと科学で進化するスポーツの現在地と未来

今、スポーツが最先端のテクノロジーと科学の力で進化し、産業が大きく変わろうとしています。データ活用によって選手を育成したり、ファンへ新たな楽しみ方を提供したりする「スポーツDX」は、スポーツ経営を考える上で必須の取り組みになりつつあります。「Macnica Networks DAY 2021 + macnica.ai」において、マクニカ 営業統括本部カスタマーエンゲージメント推進室の峰尾基次が登壇したセッション「スポーツサイエンスが変える近未来〜データ×選手育成・クラブ経営・ファンサービス等〜」の内容をもとに、最新の「スポーツDX」の取り組み事例や、デジタル活用におけるスポーツ業界の未来について解説します。

スポーツとDXが密接につながることで得られる効果とは?

デジタルトランスフォーメーション(DX)は大きく4つの事象に分けられます。その中でも「デジタライゼーション」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)」について、スポーツサイエンスと結びつけて考えてみます。デジタライゼーションは収益力を高める取り組み、特にチームの強化や育成での活用が始まっています。一方DXについては、お客様とのエンドツーエンドでつながる価値の創出や、周辺事業とのデジタル連携を加速させる取り組みとして活用されています。

それに伴い、スポーツサイエンスを支えるテクノロジーも加速度的に進化を続けています。例えば、映像コンテンツや通信技術を支える技術として、5G/LTE、Wi-Fiなどが広く活用されており、それをつなぐセキュリティ技術も活用の幅を広げています。また、顧客の属性・行動・人流解析などの領域ではAI・機械学習といった技術が採用されています。VRやテレプレゼンス技術も今後密接に関係してくるでしょう。


スポーツDX1.pngテクノロジーとスポーツビジネスが深く結びつくことで、より優れた体験を提供できるようになります

「重要なのは、先端技術を見通す力です。センシング技術は、どんどん高性能化・高精度化することによって、見ることができる"対象"が変わってきます。いまでは脳波や神経の動きも見えるようになってきています。スポーツ分野でDXを検討される方は、『何を』『どうやって』『何の技術を使って』『誰に対して』『どのようなビジネス変化を起こすのか』ということを網羅的に検討する必要があるでしょう」(峰尾)

テクノロジーをサイエンスの切り口で整理してみると、筋電、脳波、骨格のモデリングといったデータに加えて、位置、加速度、振動、気温など環境データが取得可能になってきています。

体の「動き」を解明する学問であるスポーツバイオメカニクスで動きをデータとして取得。動きを把握できれば、「どの筋肉を鍛えるべきか」といったスポーツ生理学・医学にも適用することも可能になります。また、スポーツ栄養学や生化学にも活用しようとする動きも出てきています。これらのデータを使ってコーチングやトレーニングといった視点でユースケースが広がっています。


スポーツDX2.pngデータをつなぐことでさまざまなスポーツ学問に適用できるようになります

プロスポーツ分野におけるDXのポイントは試合以外での「価値・体験」の提供

国内におけるスポーツプロスポーツの収益構造については、大きく4つの収益源で成り立っています。ただ、コロナ禍で無観客や人数制限を強いられるなど大きな影響を受け、中期的には広告や放映権にも影響が出る可能性があります。リアルの感動体験が他の娯楽にスイッチする「スタジアム離れ」も始まっています。

目先の対策としてライブ配信を始めているプロチームもありますが、収益源を補えるのは上位チームにとどまっており、下位チームや二部リーグの場合にはなかなか根本的な対策になっていないのが現状です。その一因には、視聴プラットフォームの共通化があります。高度なプレーを見たいというユーザーは、上位リーグや海外名門チームを視聴する傾向にあるため、同じ視聴プラットフォームにある下位チームや二部リーグのコンテンツは埋もれがちになります。同じサイバー空間で勝負するというのは非常に難しいのです。

「下位チームや二部リーグのコンテンツを選んでもらうためには、戦略の軸を変えなければなりません。試合以外で+αの価値や体験を提供する必要があるのです」(峰尾)

ファン満足度を向上させるためには?

近い未来、スポーツビジネスで着目すべきは「スタジアム」「エンターテインメント」です。先に述べたように、試合以外での新たな価値・体験の提供が求められます。

スタジアム運営においては、そもそもの機能を見直す必要があるでしょう。例えば、ニューヨーク市の歴史あるスポーツアリーナ「マジソン・スクエア・ガーデン」では、年400回以上の興行を行っており、1日に2回の興行も稀ではありません。これを可能にしているのは、「ワンボタン」でアイスアリーナとバスケットコートを簡単に切り替えられる設備にあります。また、コンサートにも対応できる高音質な音響システムを常設しているため、異業種とのコラボライブイベントもできます。このようにスポーツ以外で価値・体験を提供することでファン満足度を向上させているのです。

また、コロナ禍の無観客開催にも関わらず売上アップを達成したスポーツとして競馬が挙げられます。コロナ禍で場外馬券の販売が中止されたことを受け、JRA(日本中央競馬会)のインターネット投票会員サービス「即PAT」にアクセスが集中。その結果、新規の加入者数90万人が超え、売上も前年比36%アップしたといいます。

日本ではあまり馴染みがないベッティングシステムですが、海外では非常に注目されているビジネスです。スポーツの純粋な興行収入より、ベッティングで動くお金の方が圧倒的に大きい事が北米で証明されています。日本においても2024年の合法化に向けた検討が始まっており、DXを考える際には「ベッティングシステム」を組み込んだビジネスモデルを検討すべきと考えています。

地方創生×スポーツにも目が離せません。これは、スポーツ施設をハブとして社会課題を解決しようという取り組みです。代表的な例は、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスの本拠地であるPayPayドームです。ここでは、座席が地方のスポンサーによってデザインされていたり、併設ホテルや交通機関と連携したりとドーム周辺が常に賑わうような仕組みも企画されています。このように、隣接ビジネスとデータ連携をしながらサービスの革新を図ることで、ファンを満足させようとしているのです。

また、アフターコロナを視野に「スポーツツーリズム」の仕組みづくりも活発に動いているほか、eスポーツやパラスポーツとの連携も加速しています。

もう一つ活発な動きを見せいているのは、エデュケーション(教育)領域です。特にアスリート向けには、VRシミュレーターなどデジタルデータを活用したスポーツサイエンスの実践適応が進んでいます。

アマチュアでも利用できるものとして、長野県にスキーのシミュレーターを置く旅館があります。これなら冬場のみならず夏場の稼働増加が期待できますし、初めてスキーに挑戦する方でも事前にシミュレーションで練習してから滑れるためゲレンデデビューも安心です。

このように、DXによってスポーツ領域に革新が起きています。テクノロジーが進歩すればするほど、スポーツサイエンスが発展しますし、デジタルを使った取り組みにより、ファンにも試合観戦+αの価値・体験を提供できるようになります。今後、DXの取り組み度合いによって、アスリートの能力やスポーツビジネスの収益が左右される時代もくるかもしれません。それに備えるためにも、今からDXに注目しておくのもよいでしょう。


スポーツDX3.jpgテクノロジーの発展によって、より新しく、よりエキサイティングな体験を提供できるようになります

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株式会社マクニカ
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峰尾 基次