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既に身の回りの電子機器、デバイスの多くに組み込まれているAI。ただ、日本国内において、企業システムへのAI実装はまだまだ途上と言わざるを得ません。今後グローバルでの競争を生き抜くためにAIを当たり前に実装、活用できる体制、経験が必要です。

本記事では、510年後のAI実装のビジョン、そのビジョン達成のために企業が獲得しなければいけないミッシングピースとその獲得方法について、東京海上日動火災保険株式会社の村野様をお迎えします。

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東京海上日動火災保険株式会社の村野様(左)とマクニカの吉井

東京海上グループは、東京海上日動火災保険(以下、東京海上日動)、あんしん生命など、いくつかの会社で構成されています。世界中で保険を中心に事業を展開しており、内訳は半数が国内、半数が海外です。村野様は、東京海上日動のIT企画部・部長と、IT子会社として設立した東京海上日動システムズのデジタルイノベーション本部長を兼務しており、東京海上グループのDXを担当しています。

2021年71日に東京海上ディーアールがスタートしました。「データ」を集め、「デジタル」の手法を使って、「デザイン」シンキングをしながら様々なサービスの提供を模索しています。村野様は、それを実行する組織である経営企画部データ戦略室で、上級主席研究員も務めています。

■日常生活にAIが埋め込まれている世界へ

洗濯機や掃除機、エアコンなどに既にAIが埋め込まれていることは、皆さんお気づきでしょう。われわれの生活はAIに囲まれている一方で、企業システムに関しては、まだAIの実装はごく一部に限られているように思います。マクニカも、AI事業を進めています。実装が進んでいるお客さまも多いですが、やはり局地的な実装にとどまっている印象が強いです。

しかし、「AI5年、10年という長期的な視点で眺めると、企業システムにも広くAIが実装されている時代が訪れているでしょう」と村野様。あるいは、そうなっていかないと日本企業のグローバルな競争力は維持できないと考えています。こういった問題意識を持ち、AIを当然のように活用する時代に向けて議論し、展望していきます。

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■5~10年後に目指すシステムの姿

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東京海上日動のビジネスには、現時点でもAIがかなり組み込まれています。例えば、ドライブレコーダーを活用した自動車保険といったモデルをつくり、安全運転をサポートしています。事故が起きた場合には、AIによる判定なども活用しお客様にサービスを提供しています。さらに、社内の業務にもAIがかなり入り込んでいます。

村野様は「510年のスパンで考えると、すごいスピードで変化する」と話します。従来は人間の仕事だったことをAIが取って代わるというものが多かったのですが、今後はAIでなければできないようなサービスが次々に登場してくるでしょう。AIが引き起こすそうした変化を前提に、保険会社のビジネスが進んでいくと想定しています。

実際にAI活用を進めるに当たって留意している点は、アプリケーションの良しあしが、AIが使用されるかどうかを決めるということです。AIを成立させるためにデータが必要であり、データを収集してモデルをつくります。しかし、どんなに良いモデルができても、質の高いアプリケーションに実装されなければ宝の持ち腐れになってしまいます。つまり、アプリケーションの良しあしで、そのAIの利用価値が決まってきます。良いモデルを提供するためには、よいアプリケーションが必要なのです。

また、作ったAIやアプリケーションがどんなに良い物でも、できた瞬間から陳腐化が始まります。AIは自分で学習する分、精度が良くなることも、悪くなることもあります。つまり、正しい学習を繰り返してサービスを向上させることで、持続可能なAIが維持できるのです。

実際に持続可能なAIを維持するためには、優秀なデータサイエンティストを抱えるだけでなく、データの理解と整備が大事です。また、プロジェクトを管理していくような、エンジニアリングに必要な役割を持った人材、セキュリティなどを気にすることなく仕事に没頭できるような、信頼できるインフラが必要です。

攻めと守りのDXと言われますが、東京海上日動は、守りのDXとして社内業務を次々と効率化しています。人に変わってAIを利用することで、複雑化したさまざまなデータを直接処理できるようになります。これが守りのAIに当たります。

一方攻めのDXは、新しい価値を顧客に届けることを意味します。保険はもともと、事故に遭われた方に損害金をお支払いするのが基本です。これが攻めのDXでは、いかに事故を起こらないようにするかを、膨大なデータをAIで分析ながら予測していくという考え方をします。

戦略としては攻めと守りがありますが、実際には同じようなデータ、モデルを使っており、それがアプリケーションとして攻め側を担当するのか、守り側なのかが決まるというだけです。仕組み自体は、攻めも守りも同じものだと言えます。重要なのは、膨大なデータを誰が、何の目的で、どのように使っているかを管理し、モニタリングすることです。できたAIが陳腐化せず、持続可能であるかどうかをチェックしていくことができて、初めて信頼できるAIだと言えます。

■AI実装に向けたミッシングピースは?

AIDXを実施するには、会社の文化を変えないといけない」と村野様は指摘します。DXAIは必ず成功するとは限りません。物事にチャレンジする文化や、チャレンジしたものが顧客に受け入れられることが重要になってきます。東京海上日動は、システムだけではなく、サービスを作り出すところを含めた「アジャイル」を文化にする取り組みを始めています。

また、IT部門だけでなく、エンドユーザーも既にAIを使うようになっています。その意味では、ビジネスの最前線でAIをどう使うかを考えなくてはなりません。つまり、エンドユーザーコンピューティングの中にもAIが入り込む時代になっていきます。

もともと損害保険は、データを集めて予測する点でAIと役割が似ているため、かなり親和性は高いです。損害保険のビジネスは、世の中のリスクになるべく早くキャッチアップするものです。さらに世の中も変化していきます。もともとは、船の保険でしたが、現在は半数が自動車の保険になっているように、世の中の動きに合わせて変化していくうちに、また何年後かには、保険の世界が全く違う姿に変わっているかもしれません。そういった流れの中で、AIが使われると村野様は指摘しています。

AIは怖い」というイメージがある通り、エンゲージメントや事故の予防を促す、査定など繊細な部分でのAI活用はチャレンジングであることは確かです。慎重にモニタリングしながら、持続可能なサービスとして提供することが必要になります。むしろ、既存の利便性をさらに高めるサービスとしての役割の方が、受け入れられやすいと言えるでしょう。

「東京海上ディーアールという、グループの中で1つの会社を作り、データを保険会社の範囲に止まらずにさまざまなところから集めます」と村野様。それを基に、より便利で安全な環境を届け続けることが、企業としての信頼につながると考えています。

■海外のAIベンダー、AIテクノロジーの活用

既に東京海上日動は、海外のスタートアップと組んでさまざまなモデルを活用し、APIなどを利用しながらサービスを実装しています。特に、事故が起こった時の処理などに、海外のAIを組み込んでいます。今後さまざまなデータの範囲も広くなるため、2つの方向で考えていかないとなりません。1つは、社内でデータ分析ができる実力をつけること、もう1つは社外の活用です。

東京海上グループでは「Data Science Hill Climb(データサイエンスヒルクライム)」という社内でデータサイエンティスト育成するプログラムを展開しています。育成したサイエンティストは、モデルを内製化したり、各部門でのデータ活用を推進します。

社外の活用では、あらゆるデータを理解、処理し、活用していくには社内のリソースだけでは完璧にいかないという前提に立ちます。セキュアな分析環境を提供し、外部の有能な人材に処理してもらえるように、安全なインフラを現在構築しています。この2つを両輪として進めることによって、AI適応が進んで行くと考えています。

現在、東京海上日動では海外のモデルや仕組みを活用しています。APIを通じて、海外で生まれ、成長しているAIを活用しています。これが海外活用の第一歩であり、いくつかの分野で進んでいます。第二弾としては、人的リソースやデータ持ち出しの問題などを解決し、外部の人材が、社内のサイエンティストと同じように力を発揮できる状況を作ることです。

こうした取り組みによって、新しいAIが実装できると考えます。また、データの分野は1社だけではほとんど意味がない時代に入っています。人的リソースの活用、インフラの統合を含めて多くの企業の助けがあって初めて進められます。「DXのためにオープンに体制を整えていく」と村野様は話します。

■マクニカの役割

マクニカでも、国内のリソースだけでまかなうのはむずかしく、グローバルな人材の活用が大きなテーマとなります。マクニカはAIベンダーとして、データ流通の問題を解決し、多くのリソースのある海外のデータサイエンティストを、国内の企業が活用できるようにするのが使命だと思っています。

持続可能なAIをつくることは大きなテーマです。テクノロジー面でも、顧客とのエンゲージメントとしても、その体制と人材を考えていかないと、持続可能なAIをつくり、維持することはできません。攻めはもちろん、守りの部分も含めて競争力を高め、課題を解決することによって、持続可能なAIをつくることができます。

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