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コロナ禍の外出自粛・制限により、非接触の性質を持つECチャネルの成長率が加速し、物販系分野のBtoC-EC市場規模では12.2兆円、対前年成長率はプラス22%と大きく成長しました(出典元:経済産業省HP)。 しかし、人々の生活の中でデジタルを活用する頻度はこれまで以上のペースで増加しているのに、EC化率は8%と依然としてECチャネル以外での販売構成比が高い状況にあります。本記事ではアフターコロナの時代において「顧客とのタッチポイント」をどう設計し、どのような購買体験を提供していくべきかについて考察します。

2020年5月、日本で初めてのコロナ禍による緊急事態宣言発出以降、非接触の性質を持つECチャネルの成長率が加速していきました。2020年の物販系分野EC伸長率は22%にも達し、市場規模では12.2兆円となっています。人々の生活の中でデジタルを活用する機会が確実に増えていきました。

しかし、確かに成長率は高いものの、物販系分野の2020EC化率は8%にすぎません。2020年の成長分は全体のEC化率を1.32ポイント増加させただけなのです。まだまだリアル店舗での買い物が主流のこの状況について、Colabofact代表の小松夕祐様に聞きます。小松様はデジタルマーケティング支援企業やアマゾンジャパンでデジタルマーケティングにおける戦略から実行、分析、バイヤーとして事業戦略、P/L管理、需要予測、商品企画を経験した方です。

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(左からマクニカ 太田、Colabofact 小松様)

2021年の6月に実施されたコロナ禍における生活全般に関するアンケート調査があります。これによるとショッピングモールや百貨店などでの買い物はほかの方法で代替できる、と回答した人もいる一方で、それよりも多くの人が代替はできないと回答しています。

その理由は「五感で楽しむ」「非日常的な感覚を楽しむ」といったことができないからというものです。こうした結果からも、「今後新しいECビジネスを立ち上げる際には、このリアル店舗での顧客体験を無視することはできないし、オンラインとリアルを分けて戦略を策定していては顧客を満足させることはできない。オンラインとリアルを横断的にとらえることが大切」と小松様は話します。

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小松様の指摘する「オンラインとリアルを横断的にとらえる戦略」は、米国の著名な経営学者のフィリップ・コトラー氏が著書『コトラーのリテール4.0』の中で同様の指摘をしています。「アマゾンやアリババといった電子取引の巨人がリアル店舗の開設を決めている」としているのです。

リアル店舗での購買体験の向上がECサイトの成長にも大きく影響

電子取引の巨人がリアル店舗を開設する目的は、リアル店舗での顧客の行動から、顧客の嗜好を探るためです。アマゾンは無人コンビニの「Amazon Go」を展開中ですが、サンフランシスコにオープンしたAmazon Goで買い物体験をした小松様は、まさに非日常的な体験だったと振り返っています。

「無人コンビニまではいかなくても、日本の小売業界でもリアル店舗でさまざまなデータ収集やECサイトとの連携が企画されています」(小松様)

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マクニカではリアル店舗のデジタル化のためのソリューションを提供しています。複数台のAIカメラを設置し、プロファイルを事前に取得している顧客の購買行動をデータ化します。また店舗内には「TEMI」というAIシステムで管理されたコミュニケーションロボットを配置し、商品のレコメンドや問い合わせの対応、決済なども行います。プロファイルを取得している顧客については、過去のデータを分析して個別にカスタマイズされた情報を提供していき、より新しい体験をしてもらいます。さらに、退店後は顧客に店舗での体験を評価してもらい、そのデータも蓄積していきます。

同じ仕組みを利用して、棚割り方法のリコメンドを自動でユーザーに行うことも可能です。顧客の店内での動きをデータ化し、棚割りごとのスコアを出して実際の商品の陳列に生かすことも可能です。これにより多くの顧客に新しい商品との出会いを生み出すことができます。この手法は、顧客ごとにカスタマイズするのではなく、多くの顧客の購買意欲を高める方法といえます。

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このようにリアル店舗での購買体験が向上していくことで、ECサイトの成長にも大きく影響してくると考えています。

「私がECサイトの運営で常に心掛けていたのは、商品を『探しやすく』『検討しやすく』『購入しやすく』するにはどうすればいいのかということでした」と小松様は指摘します。リアル店舗では商品を手に取って検討できるところに優位性があります。さらに検討する際、店の担当者と話をしながら決めることも大きいです。リアル店舗ならではの優位性をより高めることで、最終的にECサイトでの購入につながるケースが増えていく可能性もあると続けます。

もちろん、リアル店舗においてプロファイルを取得した顧客の動きをデータ化したり、顧客自身に体験を評価してもらったりするには、個人情報の問題などさまざまな壁があります。顧客側が大切な情報を提供し、能動的な評価をするには、それなりに納得できるメリットがなくてはなりません。そうしたメリットをどう提供していくのかも、今後、多くのユーザーが取り組んでいく課題となるでしょう。

商品情報管理ではなく「商品管理」の高度化が新しい時代の鍵となる

「オンラインとリアルを横断的にとらえる」という発想と行動は、いまや消費者の方が率先して身に付けているのではないでしょうか。スマートフォンなどでECサイト内の商品を検索し、おおよその情報をつかんでから、店舗を訪れて実物を触るといった方法で検討し、購入していくといった形です。逆にリアル店舗で商品を発見し、ECサイトで購入というパターンもあるでしょう。

ここで小松様は個人的な購買体験を話してくださいました。リビングに敷くラグを買おうと思い、あるECサイトでラグの品定めをしていたそうです。ラグは手触りが重要な選定ポイントです。そこでそのECサイトが運営しているリアル店舗に行き、実際に触って確かめてみて買おうと考えました。

「このサイトでとても便利な機能を知り、以後、必ずこの機能を使うようになりました。それはその商品が置いてある店舗一覧を示す機能です」と小松様。何気ない機能ですが、もしこれがなければ、いちいち電話で問い合わせるか、直接近くの店舗に行ってみるしかありません。そんなことをしているうちに、いつのまにか購入しそびれてそのままになるかもしれません。でももともとECサイトで探すくらいですからその段階では買う意志はそれなりに固まっています。在庫が確実にある店舗がわかれば、もう、買う気満々です。「実際にわたしは店舗に行き、購入しました」(小松様)。

ここで小松様はこうした在庫情報の管理の大切さとその難しさを指摘します。当該商品がどこの店舗に行けばあるのか、という情報は購買に大きく影響する大切な情報で、この情報自体は何か目新しい、奇を衒ったものではありません。しかし、これを顧客に常に最新情報として提示するには、大手小売り事業者にもなると数十万から数百万種類の商品の個々のデータを常時管理し、瞬時にサイトで提示できなくてはなりません。そうした仕組みを構築し、運用するのはかなりの労力を要します。

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オンラインでの購買体験向上の重要なポイントは大きく3点、商品のカタログ情報の充実化、在庫の適正化、適切なプライシングと考えています。

商品のカタログ情報は、訪問者の購入の決め手となる情報が掲載されていたり、条件にマッチした商品が簡単にヒットしたりする仕組みが重要です。在庫は、訪問者が商品を購入したくとも在庫がなければ購入できないため、適正量を保つことが重要となります。プライシングは、セールなどの安売りを行うという意味ではなく、競合他社と比べて遜色のない価格を維持できているかが重要です。

商品情報管理という言葉と商品管理という言葉を混同して使われることがありますが、商品情報管理とは商品のカタログ情報の管理ということになります。しかし商品管理の意味は、カタログ情報に在庫情報とプライシングの最新情報も合わせたものになります。つまり「顧客の購買体験・満足度」に直接影響するのは商品管理なのです。

マクニカでは、数百万種類の商品をECサイトで販売するアスクル株式会社様の商品管理のお手伝いもさせていただいています。

アスクル様ではサプライヤーから日々送られてくる商品のカテゴリー分けを人手で行っていました。この作業は外部のBPO先に委託しており、コストがかさむことと、作業が属人化してしまう状況が懸念されていました。そこで当社が協力し、このカテゴリー分けをAIで判定する仕組みを構築したのです。これにより新規商品登録のおよそ70%のカテゴリ付与が自動化され、BPO先への委託コストも軽減し、属人化の懸念も低減しました。登録のスピードが、人手ですべて行っていたころに比べて大幅に向上することで、新しい商品の販売をすぐに開始でき、販売機会の最大化にもつながっています。

▼アスクル株式会社様 CrowdANALYTIX導入事例

https://www.macnica.co.jp/business/ai/manufactures/crowdanalytix/138921/

ここで活用している「カテゴリー自動付与AIサービス」はマクニカの関係会社であり25,000人以上のデータサイエンティストコミュニティを有するCrowdANALYTIX社が開発しました。このようにマクニカでは、小売業の分野におけるAI活用でもさまざまな実績を積み重ねています。

小売業界の新しい挑戦に豊富な実績で貢献

ここまで述べてきたように、小売業の世界はコロナ禍によって大きく変貌する兆しを見せています。しかしその変化は単純に「リアル店舗は廃れ、ECサイトが幅を利かせるようになる」といったものではありません。コロナ禍により世代を超えてEC利用の裾野は広がったものの、リアル・店舗での顧客とのコミュニケーションが引き続き大切なのです。

ECの分野が伸長する中で、接客を通じて実物を見てもらいながら商品を説明することにより、顧客の購買判断をサポートすることが大切だということが明確になってきました。今後、どのようなチャレンジを小売業界は行っていけばいいのかというと、オンラインだけ、リアルだけではなく、双方を横断したユーザー体験をサポートする情報提供や仕組みづくりを構築することが大切ということになるでしょう。

また、新しい小売りの仕組みについて、実際に自分自身で購買体験をしてみることも大切です。そうした体験を基に、新しい取り組みを進めていきたいという場合は、ぜひマクニカにお声かけください。豊富な実績に基づいた、幅広い技術応用力で皆様のチャレンジのお手伝いをしていきます。

▼大規模EC事業者向けAIサービス「CrowdANALYTIX for EC -品揃え拡大を支える商品管理支援AI-」

詳細はこちら
https://www.macnica.co.jp/business/ai/manufacturers/crowdanalytix/forec.html

▼世界2.5万人のデータサイエンスリソースを活用したビジネス課題解決型のAIサービス
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