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中国は、意外にもSDGsに積極的に取り組んでいます。背景には、環境破壊や経済格差など深刻化する社会問題に直面する現実があります。そこで、中国がここ数年で目覚ましい発展を遂げた自国のテクノロジーをどのように活用し、SDGsの問題に取り組んでいるかを紹介します。そのデジタル技術の活用に関する情報をビジネスモデルの構築のヒントにし、さらに中国でのビジネスにどう生かしていくかといったことにも役立てていただければと思います。

■なぜ中国のSDGsなのか-中国がSDGs課題を重視する理由

まずSDGsについて簡単におさらいをしておきましょう。SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、持続可能な開発目標を意味し、2030年を年限とする17の国際目標で構成されています。2015年9月の国連サミットで、全会一致で採択されました。

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出典:外務省国際協力局

非営利団体の「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」によると、中国のSDGs達成状況ランキングで、中国は162カ国中39位です。日本は15位ですので、それと比較してもまだまだこれからと言えます。

しかし、中国は産官学を挙げて、SDGsへの取り組みを進めています。政府は「第14次五カ年計画」の各項目にSDGsの内容を盛り込み、2030年SDGsアジェンダ実行のための国別方案策定を行っています。アカデミアの方では、清華大学がスイスのジュネーブ大学と覚書を取り交わし、公共管理学院に世界初の「グローバルSDGs研究院」を設立しています。産業界では、大手企業でサスティナビリティレポートを開示し、SDGs向け投資、寄付も積極的に行っています。

このように中国はSDGsへの取り組みを極めて積極的に行っているわけですが、その理由は「大きな社会格差」「深刻な環境問題」が挙げられます。

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引用:財務省広報誌「ファイナンス」

所得の不平等さを測る指標に「ジニ係数」というものがあります。これで各主要国を比較すると、圧倒的に中国の所得格差が大きいことがわかります。1に近づくほど所得格差が拡大しており、0.4を超えると社会的にかなり大きな問題になるといわれています。

この格差をざっくり表現すると、中国には資産10億ドル以上の「ビリオネア」が2020年で2,755人います。これは世界一の数字です。また2020年の月収1,000元(約1万5000円)以下の人口は約6億人いるとされています。これだけでも経済的な格差はかなり大きいといわざるを得ません。

「深刻な環境問題」としては、まずCO2の排出量が世界一であることが挙がります。国土の気温上昇率も世界平均よりも高い状況です。さらに深刻なPM2.5(大気汚染)問題があり、北京、上海、広州などでは大気汚染によって数千人規模の死者が出ているとされています。2007年の世界銀行の調査によると、中国全土で大気汚染によって年間数十万人が死亡しています。また、大気だけでなく水質や土壌の汚染もあるので、環境問題の解決は急務となっています。

このようにさまざまな問題を抱えている中国ですが、一方でデジタルテクノロジーの進展には目を見張るばかりであり、特にAI、データサイエンスの分野で世界トップクラスに成長しています。マサチューセッツ大学アマースト校のコンピュータサイエンスの専門家Emery Berger教授が作成した世界の大学を対象にしたCS(Computer Science)ranking AI分野の2021年版では、トップ5のうち中国の大学が4つを占める結果となりました。このランキングでは残念ながら、日本の大学はトップ15位にも入っていません。

ここで注目されるのは、世界屈指のデジタルテクノロジーを使ってSDGsに関する深刻な課題をどう解決していくのか、ということです。今現在、そしてこれからの中国の取り組みを見ていくことで、日本企業もさまざまなヒントが得られるのではないでしょうか。

■SDGs関連の問題にデジタルテクノロジーをどのように活用するのか

では、最初に経済格差への取り組みについて見ていきましょう。

中国ではデジタルテクノロジーを活用して農村の貧困対策を実施しています。例えば「農村ライブコマース」です。これはアリババやウェイボなどIT大手が取り組んでいるもので、ネットのライブ映像で農村の特産品を紹介し販売を行うというものです。農村向けECプラットフォームを提供し、各農村の特産品のプロデュースなども行っています。

またビッグデータによる貧困支援も行っています。例えば「中国最貧省」として知られていた雲南省の東側ある貴州は、2015年の調査で農村貧困人口が全国の8.9%、貧困発生率が18%となっていました。そこに貴州省と中国大手IT企業(Inspur)が、「ビッグデータによる貧困支援クラウド」を構築し、GPSの位置情報をベースに、家や農作物生産、労働状態などさまざまなデータを利用して世帯の貧困状態を高精度で定量化したのです。

これまでは各世帯の貧困状態を把握することはできませんでしたが、クラウドを活用することで、支援すべき世帯の実態がわかるようになり、不正を防止しながら必要な世帯に必要な支援が届く仕組みを構築できました。そして200万を超える貧困世帯と行政を結び付け、生活支援を実現していきました。

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その後中国では、こうした取り組みを総合的な生活支援クラウドとして教育サービスやECプラットフォーム連携させました。それにより教育を受けられない世帯の子弟の実態なども把握でき適切な支援ができるようになりました。都市部の消費者と地方の農村がつながることで所得増のチャンスも生まれ、さらに生産・加工・物流・販売のサプライチェーン管理システムが構築され、より効率的なビジネスが運営されることとなりました。

こうした取り組みの結果、中国全土の極貧(年間所得2,300元以下)の人数は、2012年は9,899万人だったのが2020年はゼロになったといいます。また中国全土の農村部の年平均所得は、2013年が6,079元(約9万7,000円)だったのが、2020年には1万2,588元(約20万円)になりました。

もちろん中国での発表数字をうのみにすることはできませんが、少なくとも貧困の解消はかなりのスピードで進行していると考えていいでしょう。また、農村で実施されたビッグデータの活用をそのまま日本などで実施するのは、個人情報の問題などがあり、難しいと思われます。しかしさまざまな障壁を乗り越えていくことで、地方と都市部の格差などの解決も見えてくるのではないでしょうか。

次に脱炭素への取り組みはどうでしょうか。

中国は2060年に炭素排出量ゼロ(カーボンニュートラル)を宣言し、電源構成の火力発電の比率を少しずつ低減させています。さらに比率は少ないですが、原子力発電と風力・太陽光など再生エネルギーは高い成長率を示しています。また第14次5カ年計画(2021-2025年)で、クリーンエネルギーの柱となる9大基地と4つの洋上風力発電基地を発表し、電力消費量の多い沿岸部への送電網構築にも注力しています。

また大手ITのアリババやテンセントでは、データセンターのエネルギー改革に取り組んでいます。アリババではデータセンターにおけるクリーンエネルギー調達と電力削減により2020年のCO2排出量30万トン削減に成功しています。さらにグループ会社に産業向けソリューションを提供して鋼材利用効率化や紙の削減などに成功しています。テンセントでは重慶・天津などのデータセンターにおけるクリーンエネルギー調達を実施し、社会問題解決にむけて約8,000億円の投資を行っています。

またユニークなアプリによる脱炭素の取り組みもおこなっています。Alipayユーザー向けのアプリ「アントフォレスト」を使うことで、公共交通機関の利用など、低炭素につながる行動をするとポイントが加算され、ユーザーごとに用意された仮想空間の木が成長していきます。そして成長した木を非営利団体や環境保護企業に売ることで、リアルな植樹につながるという仕組みです。2020年9月時点で約5億5,000万人超がこれに参加し、2億2,300万本以上の木を植樹しました。これにより内モンゴルなどの砂漠の緑化に貢献し、植樹のための雇用も地域に生まれたといいます。

さらに環境産業への取り組みではどうでしょうか。

中国では環境産業(土壌・大気・水汚染対策、環境測定等)が2004年から2019年にかけて売り上げが29倍になっています。この間の年平均成長率は25.5%に達する高レベルの伸びです。大気汚染については全土に固定センサによる大気質モニタリングシステムが構築され、地域によってはタクシーに取り付けたモバイル機器で都市全体の汚染状況をリアルタイムにマッピングするといった取り組みも行われています。こうした仕組みにより従来の10倍の汚染源を検出できたそうです。

自動車産業では、EVの推進を行い2035年にガソリン車全廃、新車はすべて環境対応車にすると宣言しています。関連スタートアップも多数出現し、自動車産業全体のイノベーションが進んでいます。

環境関連のスタートアップは続々と登場しており、土壌環境改善の総合ソリューション企業「Gaiya Technology」は土壌計測や改善用の装置を自社開発し、2018年に「中国の環境分野の次世代ユニコーントップ20」に選定されています。また、より環境負荷が低い植物や昆虫由来の代替肉が若者世代を中心に中国でも注目を集めています。中国内では、「Starfield」「Hey meat」「Youkuai」をはじめとする新興企業が登場しており、積極的な取り組みが始まっています。

■中国のSDGsのまとめと課題-中国SDGsの課題と、日本が取り組むこと

中国はSDGs達成状況ランキングでは確かに日本よりも下位にあるものの、日本では実行できていない取り組みなども導入し、ダイナミックかつ地道に進めていることがおわかりになったと思います。

SDSNの評価によれば、現在中国は17の目標のうち「教育」「成長・雇用」では目標を達成しているとされています。一方「社会的不平等」や「気候変動」などではまだ「主たる目標」とされています。

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これらの主たる目標では、中国の政治形態が影響してなかなか達成の評価は得られないものも出てくると思いますが、技術的なリソースが不足しているために達成ができないでいるケースもあるはずです。

中国では、大気モニタなど膨大なデータ処理が必要な対策には、政府がデジタル技術を積極活用しており、ECや、モバイル決済植樹のようなビジネスと社会問題をうまく組み合わせたモデルも活用しています。しかし環境系は成長産業となっているもののSDGs対策としては道半ばです。そうした中で、レベルの高い環境技術を持った企業や環境関連の優れたビジネスモデルを持っている企業にとっては、まだまだ参入のチャンスはあると考えられます。